100点に近いツアーだったと言える
「F-BLOODって、やっぱりいいよね」
そんな言葉が各所から聞こえてきた25周年ツアーが終了。
周年ならではの充実のセットリストと、ゆるい兄弟トークで、
藤井兄弟とともに観客が思い切り楽しめるステージとなった。
最終日を終えてなお「あと何本かやりたかった」と笑顔の二人。
そこには、本気で音楽を楽しんでいる人だけが持つ余裕があった。
●ツアーを振り返って
———F-BLOODの25周年ツアーが大好評のうちに終了しました。5年ぶりのツアーを振り返ってみて、いかがでしたか。
フミヤ(以下F):いいツアーになったよ。全体的に振り返ってみると、100点に近いツアーだったと言えるんじゃないかな。あんなに盛り上がるコンサートに作ったつもりはなかったのに、最終的には予想以上に、めちゃくちゃ盛り上がるコンサートになってたな(笑)。
———場内はまだ声かけや歌唱は禁止ですが、漏れ出る歓声は多少増えているので、心の解放感というのはあるかもしれません。
F:なるほどね。それは大いに関係あるだろうな!
尚之(以下N):今回は最後の最後まで、すごく楽しくやれましたよ。ロケンロー!ですね。ライブというのは、その時だけの内容で、そのクールだけで終わってしまうものなので。もうちょっと本数やりたかったなと思うぐらい。
F:16本かぁ。とにかく、あっという間な感じだったな。まだあと5〜6本やりたかったぐらい。まあ、惜しまれつつ終わるのがいいとも言えるんだけど。
N:コロナがなかったら、もっと本数が多かったもんね。Positiveツアーでは、全国のライブハウスを細かく回る予定でしたから。
F:でも、あの時やってたら「Positive」のアルバムツアーであって、今回の内容にはなっていなかった。そう思うと、結果として25周年のタイミングに当たったことはやっぱりよかったんだな。
N:そうだね。予定通りやっていたら、そもそも25周年ツアーはなかった。
F:なにより今回は、チケットがすぐ完売したことが本当にありがたかった! バンドのスケジュールとかいろんな調整をしつつ、2020年にやれなかったF-BLOODツアーを復活させようっていうことで開催できた。このメンバーでできたのも、すごくバランスがよかったんだよね。
N:そう。アルバムのレコーディングメンバーだし、おかげでいい感じになりました。
F:尚之はACTIONやRED PARTYにも入ってもらったから、ステージに一緒に立つのはそれほど久しぶりの感じはしなかったね。ただ、F-BLOODはユニットとして歌うし、俺がコーラスやタンバリンに徹することもあるから、やっぱり別物。
N:今もコロナは完全には終わっていないけれど、ようやくほぼ元通りの生活や活動ができるようになってきたじゃないですか。お客さんはまだマスクはしてくれていながらも、だいぶ前のライブ風景に戻りつつある。
F:今回はライブハウスではなく座席になったしね。さすがにライブハウスだと、まだ厳しかったと思う。
N:それこそACTIONの時なんて、まだまだだったもんね。席も間をひとつ空けて座ってもらってたし、客席がシーンとしててさ。
F:そうそう。いやー、あれは本当に慣れなかったなぁ! しょうがないんだけど。
———それを思うと、今回はマスクはしていても多少の歓声は漏れて聞こえてきていますしね。
F:そうそう。だからやっていて反応も分かるし、こっちもより気持ちよくやれる。
N:本当に、やっとここまで来たという感じですね。
F:MC、とくに真ん中のトークコーナーも狙い通りで。当初、コンセプトで「ゆるい兄弟」みたいな話をしていたけれど、狙い通りというか、予想以上にゆるくなった(笑)。ゆるむのはトークしかないからね。今回は尚之がかなりしゃべってる。
N:内容は事前にはほぼ考えていないので、その時の気分でしゃべっています(笑)。
F:F-BLOODは、もうちょっとカッコつけたら、もっと男っぽいんだけど。
———いつもながら、演奏とMCのギャップが魅力でもありますからね(笑)。Positiveツアーから25周年ツアーになったことで、セットリストもだいぶ変わりました。今回はどういうコンセプトで選曲を?
F:セットリストは観客をいざなっていく大切なものだから、いろいろ考えたよ。バラード系もたっぷり聴かせつつ、ロックンロールで盛り上がるブロックもあり。かつ、「Positive」からの曲を程よく入れる必要がある。F-BLOODは、まず尚之の作る曲のよさが前提なんだけど、あえて単純なコード進行が多いんだよ。だからこそ誰が聴いても盛り上がれるし、ノリがよくて身体が動いちゃうような。それがロックンロールの力だったりする。せっかく25周年だし、バランスをいろいろ考えて、飽きずにずっと楽しめるようなセットリストにした。二人で作った作品はF-BLOODだということにしたから、最初のツアーと比べるとだいぶ楽曲が増えたよね。人に提供した曲も含めつつ、4枚のアルバムからなるべくバランスよく入れるようにした。
N:ただ、それも簡単じゃないんだよね(笑)。アルバムというのは、その時その時でコンセプトを立てて作っているから、4枚それぞれカラーが違っていて。
F:そう。だから意外と「Ants」からは少なくて、「恋するPOWER」と「I LOVE IT!ドーナッツ!」だけ。
N:「Ants」はロックンロールじゃなくてロックだからね。ややヘビーなので。
F: あとはチェッカーズ曲を入れるバランスも考えたし、楽曲提供した「切れた首飾り」は、一度歌ってみたいと思っていた曲。
———ツアーのラストである12月24日と25日の昭和女子大学人見記念講堂では、クリスマスということで特別なナンバーがアンコール1曲目に追加となりました。
N:F-BLOODでクリスマスにライブというのは、初めてですよね。
F:そうだね。F-BLOODで普通のクリスマスソングをやるのはちょっと違うと思って、だったらLove & Peaceだよねってことで「I have a dream」。クリスマスなのに「違う神を信じ」とか言っちゃってるけどね(笑)。まあ、日本人は無宗教かつ多神教みたいなもんだからいいかなと。クリスマスが終わったら、すぐお正月だし。
N:あはは! たしかに。
F:何より、今こそ平和を願いたいというのはあるからね。
●今こそロックンロールを
F:今回やっていてあらためて思ったのが、やっぱりロックンロールのノリというのは、いいもんだなと。何も考えずに楽しめて、自然に身体が動く。「未来列車」や「ファイト!」、「君を探しに」にしても、単純なコードのギターリフだけで、そんなに曲を知らない人でもリズムをとれるようなノリの曲じゃん。F-BLOODというユニットは、やや渋めなイメージだったけれど、意外とこのロックンロールの明るい感じでいってもいいのかも?と思った。だって、なにしろ世の中にロックンロールがないんだよ。
N:そう。今回、ロックンロールってこういうもんだよね、っていうライブができたよね。ややこしいことは抜きにして、単純なコードで踊れるっていう。やっぱり、分かりやすさとかシンプルさって大事なんですよ。もちろん曲によってコンセプトはあったりしますよ。「未来列車」や「君を探しに」は番組をイメージして作ってたりするし。でも、とにかく作り手はみんな同じ方向を見ている。
———MCでも、お二人がロックンロールについて触れてから、そのブロックに入っていきましたよね。普段からファンの皆さんはお二人を通じて自然にロックンロールに触れているのですが、言われてみれば世間一般ではレアなのか、と。
N:うん。実はそうなんです。ミュージシャンの皆さんが、ロックンロールというジャンルをやらなくなっちゃったからね。そもそもロックンロールで育っていないもんね(笑)。よほど周りに好きな人がいない限り、子どもの頃から耳にする機会がないから、廃れていくのはしょうがない。
F:ちっちゃい頃から、ニルヴァーナとか複雑な曲を耳にしているしね。だって今の若い日本のロックバンドの楽曲、めちゃめちゃ複雑で難しいもん。
———たしかに最近のロックバンドの曲は、中高生がバンドを組んですぐコピーできるほどシンプルなものは少ないですね。
N:今の若い人達はむしろ、ロックンロールというシンプルなノリは出せないんじゃないかな。
F:だから俺らは、こんなに世の中にロックンロールが少なくなったのなら、逆に今こそやり続けてもいいのかも?という感じすらしている。しかもこれ、日本だけの現象じゃないからね。アメリカでもロックンロールはほとんど残っていないし、イギリスはすでに音楽自体が弱い。
N:うん、たしかに弱まってるね。アメリカはまだカントリーミュージックがあるから、若干ロックンロールというテイストは残っているかもしれないけど、あくまで古き良き時代の音楽という感じ。ロックンロールと言えば、今年プレスリーの映画がやってたよね。
F:「エルヴィス」ね、俺も観たよ。ただ、海外ではともかく日本ではそこまでお客さんが入らなかったらしい。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」はあんなに受けたのになぁ。
N:そもそも今の人たちは、プレスリーという人を知らないもんね。
F:そうなんだよ。30歳の子に「この間、プレスリーの映画を観に行ってさ」って言ったら、「プレスリーって誰ですか?」って言うわけ。「えっ、エルヴィス・プレスリーだよ。『ハートブレイク・ホテル』の」と言っても「全然分からないです」って。「ハウンド・ドッグ」とか聴かせても、「初めて聴きました」「そうなのかー!」って(笑)。まあ、ひと昔どころか、ふた昔ぐらい前だもんなぁ。
———フミヤさん・尚之さんから見ても、昔のリバイバル音楽だったわけですから。
F:そうなんだよな。俺らも80年代に50sブームがあったからこそ知っているわけで、当然リアルタイムでプレスリーを見て育ったわけじゃないからね(笑)。実際、俺らが中学生の頃は、すでにロックンロールではなくハードロックが人気だった。アマチュアロックバンドは、長髪でディープ・パープルやレッド・ツェッペリンをやってる感じだったし。
N:一応、そういうハードロックの人たちも、コード進行とかベースの部分はロックンロールが基本ではあるんだけどね。ただ、音が歪んだりして変化している。コード的に凝り始めたのは、ビートルズですね。あれは異色で特別だったんですよ。
F:ロックンロールは、ローリング・ストーンズが変わらず続けてるよね。とにかく俺らは、若い時にロックンロールが好きになった。ロックというよりはロックンロール。明るくてポップさがあり、踊れる音楽。そして、今も好きだからやっている。F-BLOODも、実はそういうところが軸になり得るのかもしれない。
●これからのF-BLOOD
———次はいつ頃、F-BLOODに会えそうでしょうか。
F:今回やってみて、今後も2〜3年に一回はライブをやれたらと思った。だってさ、普段ソロをやるのに加えてF-BLOODと考えると、60代でやれるのは3〜4回ぐらいじゃん?(笑) 曲はたくさんあるから、必ずしもアルバムリリースと関係なくてもやれるかもしれないし。あと、「朝だ!生です旅サラダ」の旅シリーズのおかげもあって、F-BLOODが地味にじわじわと浸透しているのを実感してる。番組がコロナで新たなロケをできない時期に、俺らの旅を立て続けに2本再放送してくれたじゃん。実際あのシリーズが人気があるかどうかは分からないんだけど(笑)、少なくとも二人で認知されるのには効いているんだろうな。俺が一人で地方にいると「今日は弟さんは?」って言われるぐらいだから。番組とは、またいい形でご一緒できたら嬉しいとは思ってる。
マネージャー:すでに番組の皆さんとも、ややファミリー感がありますしね。
N:こうやって大人になって兄弟で旅ができるのは、やっぱり我々には音楽というものがあるからでしょうね。きっと。
F:でなきゃ、普通なかなか二人で旅なんてしないからな(笑)。だからF-BLOODは、今後もこんな感じでゆるゆるいくんだろうなと思ってるよ。
★F-BLOODインタビューは、2回に分けてお届けいたします。後編は2023年1月にアップ予定です。どうぞお楽しみに!
※インタビュー以降に内容に変更が生じている場合があります。ご了承ください。