藤井画廊 第7回

骨董商の友人から、「この壺に絵を描いて」と頼まれた。見ると、なんとも味のある壺だ。約150~200年ほど前の、李朝時代の李朝白磁壺だという。李朝は韓国よりずっと前に朝鮮半島に存在した王朝である。そんな歴史ある壺に私の絵なんぞ描いてよいものだろうかと思ったが、「そのコラボが面白いから」と言われ、初めて骨董の壺に絵を付けることとなった。絵を描いていいというくらいなのだから、そんなに高価な物ではないのだろうと勝手に判断した。本来、李朝白磁壺というのは、均整のとれた美しい丸みのある形をしている。しかし、これはかなり歪んでいる。きっと土を乾かしている段階で変形してしまったのだろう。さらに焼いている途中に倒れでもしたのか、ところどころに他の器の高台の跡まで付いている。普通なら焼き窯から出された時に割られてもおかしくない不細工な壺だが、不細工ゆえにここまで生き残れたのかもしれない。暫く眺めていると、なんとも愛らしい形に見えてくる。
何を描こうかと数日眺めているうちに、まるでデコッパチのような歪みが、顔に見えてきた。まず目と唇を描いてみたら、完全に壺は頭になった。次に顔以外をどうしようかと思い、後ろの髪の部分に花飾りを描いてみた。そこに白いレースを描き足したところ、壺は可愛らしい花嫁になった。

大昔に、誰が作ったのかもわからない壺。作った陶芸師は失敗作だと思っただろう。とても売り物にならないので、誰かにあげたのかもしれない。それが、どこかの家の隅で生活用品として長年使われていたのかもしれない。何はともあれ約200年もの間、割れることなく生き残り、海を渡り日本にやって来て、この時代に私と出会い、可愛らしい花嫁が描かれ、ひとつのアート作品になった。これからこの壺は、どんな運命を辿るのだろう。