FF SPECIAL INTERVIEW

個展はエンターテインメント
ファンが見てくれなければ意味がない

今なお続くコロナ禍で、ACTIONツアーの公演延期や中止も余儀なくされてはいるものの、“藤井フミヤの世界”は、静かに根を広げている。
2021年の大きな活動のひとつが、各地での個展開催だ。

そこで今回は、個展への想いや現代アートシーン考など、アートを軸に語ってもらった。

今は再会を楽しみに

—— 昨年は、コロナ禍でも10月からACTIONツアーを始めたことが、意義として大きいものでした。
フミヤ(以下F): そうだね。引き続きエンタメ業界は大変な状況が続いてるけど、去年やってみて、ちゃんと感染予防してさえいればできると分かったことが大きかった。ただ、また年明けに緊急事態宣言が出たから、ライブも延期や中止が続いていて、最終日もいつになるか分からない状態だけど。まあ、こればかりは仕方ないよね。もちろん歌い手としてはそろそろ再開したいけど、今はお互い気をつけて過ごしつつ、会場で会える日を楽しみに待っていてもらうしかない。それに、ACTION以降のライブのことも、すでに考えている。まだ確定できないけど、しっかり進めていくよ。

—— ライブ以外の音楽活動は、いかがですか。
F:まず、3月にNHKで90分のスペシャル番組が決まった。これはチェッカーズ、ソロ、F-BLOODと全部歌うから、がっつり楽しんでもらえる番組になると思うよ。セットリストも、ほぼ決まってきた。大島くんバンドと十音楽団の二つの編成でやるから、いろんなタイプの曲を楽しんでもらえる。

マネージャー:他にもいろいろと進行していますので、皆さん、楽しみにしていただければと思います。

各地での個展開催

—— 今年は、アート展の予定がかなり決まっているとか。
F:うん。夏から来年にかけて、おかげさまでいくつも個展が決まっている。今のところ静岡、福岡、広島ほか、いろんな地方で楽しんでもらえる予定。こういう個展やアートのプロジェクトは、じっくり時間をかけてやっていくつもり。展示作品は、基本的には2019年の代官山ヒルサイドフォーラムでスタートしたあの流れが9割ぐらいで、少し新作を足していければいいなと。最近また、絵を描く時間も増えている。前も言ったけど、最初の緊急事態宣言の時は絵を描くモードになれなかったんだよね。花も咲いているような季節に、家にこもって描き続けるのは気が滅入るから。でも今は、ツアーも延期で時間ができたし、どうせ寒いから家にいるし(笑)、なるべく作品を溜めておきたいなと。日々コツコツ描いていると、自分でも「これ、いつ描き終わるんだろう。永遠に終わらないんじゃないか?」と思ったりするんだけど、いつかは必ず終わる。ちょっと登山と似ているかもしれないな。でも、登山には頂上があるけれど、絵は自分でここまでという瞬間を決めなきゃいけないからね。足しすぎて「あー、やんなきゃよかった!」というのもあるし(笑)。そういえば、前回の「藤井画廊」で紹介した絵「恥じらい」だけど…(スマホを取り出して)ほら。これからどうなるか分からないよっていう状態で載せて、結局こうなった。

「恥じらい」

—— おお、これはすごいですね! 細部の柄のような描き込みが、フミヤさんらしい作風。
F:まさにそう。細かく描き込んでいって、いかにも俺らしい職人技になってる。自分でも、それなりに描き足すだろうなっていう予感はあったんだけど。それなりどころか、相当すごいことになった(笑)。

—— こういうフミヤさんの作品の面白さは、美術館で実物に近づいたり離れたりしながら、じっくりご覧いただきたいですね。個展は広い年代の作品が展示される分、楽しめるポイントが多いですね。
F:俺からすると、個展というスタイルは、エンターテインメント。ある意味、コンサートで歌を聴いてもらうのと近いかも。通常、いわゆるアートという世界は、ギャラリストがギャラリーで展示をして、お客さんがそこから購入するというのが基本スタイル。ただ、そうすると絵は持ち主のところへ行ってしまうから、それ以外の人が触れる機会がなくなってしまうんだよね。でも俺の作品は、まずファンが見てくれなければ意味がない。俺は幸い、ある程度の知名度があることで、本職ではないのに美術館が展示してくれる。それによって絵が、みんなに見てもらえるエンターテインメントになるわけ。もちろんファンだけでなく、いろんな人に見てもらいたいし、さらに買ってもらえたら嬉しいけどね。そこが普通の画家の考え方とは大きく違うところ。ただ、やっぱり作品を生み出す以上、それだけで終わってはいけないとも思う。そのためにも今、ギャラリーを作ろうと思ってる。まだ準備段階だけど、これもそのうち情報を出していくよ。ギャラリーは過去にもやったけど、また違う感じになる。面白いことをやっていきたい。

—— ギャラリーは、ファンの皆さんにもアートファンにも発信できるものになると面白そうですね。続報を楽しみにしています。

現代アートシーン考

—— ご自身も、よくギャラリーや美術館に足を運ばれていますが、今のアートシーンをどう見ていますか。
F:現代アートは近年、不動産と同じような投資目的の商品になってきているね。いわゆるIT企業の社長みたいな何百億も持っている人の最終的な趣味が、アート収集に向かってきている。それによって現代アートの価値が上がって、とんでもなく高値で売れていたりする。ただ、日本はまだまだで、あくまで市場の主流は欧米だけどね。そもそもほとんどの現代アートの作品は、サイズが相当デカいからね! 欧米ではバーンと飾る空間があっても、日本ではなかなか難しいというのもあるかもしれない。でも今、欧米の市場とは別に、新しいアート環境がアジアに生まれつつある。中国がお金を持つようになってきて、投資としてアートに向かっているから。あと、もともと中国と日本には、西洋とは違うタイプのアートがあるじゃん? 陶器や磁器の歴史も断然長いし、骨董の器が10億円とかさ。そういう、墨絵や器を古美術として愛でるような感性が基盤にあった上での現代アート、みたいな流れができつつある。アジアのアート市場が活性化して、確立されていきそうな感じがするよ。あとは、やっぱりジャパニメーションの力は大きいね。今さ、日本のアニメのセル画とか、すごい価格になってるんだよ。下描きが1000万以上したり。宮崎駿さん、手塚治虫さんはもちろん、作品でいえばドラゴンボールとかもそうだろうけど、すでに香港のオークションですごい価格になってる。アニメはフランスでも人気があるしね。今度、ニューヨーク近代美術館でもマンガやアニメをテーマとした展示をやるらしいから、これで一度ニューヨークから火が点いたら、もう、そこからあんまり下がらないんじゃないかな。

—— アニメといえば、今ちょうどグッチがドラえもんと、ロエベがトトロとコラボしていますね。昨年はロンシャンがピカチュウとコラボしていましたし。
F:そうそう。日本人がドラえもんの描かれたグッチを持つかどうかは別として(笑)、中国人も好きだし、アジアはもちろんヨーロッパのアニメファンも興味があるのかも。そもそも日本のアニメやキャラクターをアートにしたのは村上隆さんで、実際ドラえもんの作品も作っていたしね。それまでは、ロイ・リキテンスタインみたいにアメコミをアートにした人はいたけれど、現代のいわゆるアニメというものをアートにした人はいなかった。村上さんが売れたことで、日本や海外の若い作家の作風にも、明らかにアニメーションチックなアートがめちゃくちゃ増えたからね。そうやって、何かが流行ることによってアートシーン全体の価値観が変わったりすることは少なくない。技術という点でも、バスキアが出てきたおかげで、どれだけ表現の幅が広がったことか! それまではバスキアのような、一見子供が描いたようなラフな描き方は、アートとして評価されていなかったんだよ。でもそれが評価されて、「えっ、こういうのでもいいんだ!」と思った人は多い(笑)。アートの作家は、ある意味で役者に近いのかもしれない。音楽は、よほどのことがない限り、20代ぐらいまでに売れないと勢いがつかない。でも役者は広い年齢の演者が必要とされるし、年齢を重ねることで表現や演技の幅も広がる。一本のドラマで急にブレイクしたりもするし。俺の場合は音楽で売れたから、ちょっと特殊な例だけどね。いずれにしろアートはずっと作っていくし、エンターテインメントとして見てもらうことも続けていく。アート好きとしても、こうやってアートに関心を持つ人が増えたり、アジアが盛り上がってきているのは嬉しい。

—— 投資でも趣味でも絵を購入する人が増えているのは、リアルに感じます。コロナによるステイホームでも、絵を飾る人が増えているそうですし。フミヤさんは以前から、日本人は家に絵を飾る人が少ない、1枚でもあると全然違うのに…とおっしゃっていましたよね。
F:そうそう。別に有名な作家に限らず、好きな絵でも写真でもいいし、俺のカレンダーもそう。子供の絵を額装したって、それこそバスキア風の面白いアートになったりするからね。

あちこち旅したい

—— 他に、今年以降やりたいことはありますか。
F:やっぱり旅行をしたいね! これだけコロナで動けずにいるから、久しぶりにパリとか行きたいなぁ! ヨーロッパの街並みを見たい。ハワイで青い空を見ながらビーチに寝転がりたいというのもあるけど、一番行きたいのはヨーロッパだな。あとは国内でも、すぐにじゃないけどJR単線小旅行みたいなことも、いつかしてみたい。行き当たりばったりで、「今夜はこの民宿でいいや」みたいな気軽な旅。俺ね、いわゆる各駅停車とかローカルな電車が結構好きなんだよね。路線図を見るだけでワクワクするし、あちこちに旅してみたい。ラフに撮影して、YouTubeに上げたりしてもいいだろうしね。

マネージャー:YouTubeなら、その気になれば旅番組のようにもできますしね。前に会報の企画でやっていたFFガイドマップ的な感じで、地方を回ってもいいですし。

F:そうだよね。あと最近よく思うのが、これはやりたいことというよりも「やるべきこと」なんだけど。いずれ来る60代・70代を楽しく過ごすには、今が大事だなと。誰しも年齢とともに変化は起きる。今後もあちこち旅するためにも、本気で健康とか体力維持を頑張らなきゃいけない。例年はツアーに出ることがエクササイズになっているようなところもあるけど、今はもっと意識的に、運動や食事で自分をいい状態に保たなくてはいけない。仕事も旅行も、健康あってこそだからね。

—— そうですね。今後も健康第一で、音楽にアートに活躍を期待しています。ありがとうございました。

※個展の開催情報は、決まり次第藤井フミヤおよびFUMIYART公式サイト等でお知らせいたします。
※インタビュー以降に内容に変更が生じている場合があります。ご了承ください。