藤井画廊 第8回

コロナ禍で制作した2作品のうちのひとつ。コロナの蔓延で人々がマスクをするようになり、街を行き交う人たちの顔は、ほぼ目しか見えない。知り合いとすれ違っても、お互い気付かないことすらある。対面しても目だけで識別・判断し、心も読まなければいけない、なんとも不思議な世の中だ。
世界には、女性が目だけを見せる風習の国もある。イスラム教徒の中でもサウジアラビアなど一部の国の女性たちは、目元以外を布で覆う。コロナ禍の東京の街でも、若い女性がパーカーのフードをスッポリ被り、マスクをした姿を大勢見かけた。まるでムスリムの女性のようで、どことなく神秘的で魅力的にも見えた。そこで、目だけを描く作品は面白いかも、というアイデアが浮かんだ。
目を描くために、さまざまな人種の瞳を検索し参考にした。アジア人はほとんどが黒か茶色だが、ヨーロッパ人はカラフルで、まるで宇宙のブラックホールのように魂が吸い込まれそうなる。とくにアラブやトルコなどの国の人たちの瞳は、ブルー、グリーン、パープル、オレンジ、ゴールドなど、いろんな色が混じっていて宝石のように美しい。だから一部のムスリムの女性は目だけを見せるのか、と思ったほどだ。

最初は試しに、小さめのキャンバスにグラフィック的に描いた。それもなかなかいい出来栄えだったが、もっと大きな方が迫力が出るだろうとキャンバスを大きくした。まず鉛筆で描いたドローイングをパソコンに取り込んでデータに作り直し、それを大きなキャンバスにプリントアウトし、さらに手描きを加えた。どことなくアニメっぽくもあるが、一度見たら記憶に残るインパクトがある。完成した絵をしばらく部屋のイーゼルに掛けていたが、部屋に入るたびに「おっ!」と驚いてしまう。それはまるで、巨大神殿の守り神の一部のようにも見えた。
制作中にたくさんの美しい瞳を見た。こんな宝石のような女性の瞳をしばらくじっと見つめたら、魔法にかかったように、すぐ恋に落ちてしまうだろうなと思った。