彩事季 ー 若者世代へのメッセージ

若者世代へのメッセージ

我が母校の創立記念祝賀会での講演を頼まれた。だが講演なんて歌うより難しいし、普段していないことなので丁重にお断りして、ビデオでお祝いの挨拶を送ることにした。とはいえ何か立派なことを言わないとなぁ。高校生かぁ……15歳~18歳の若者に何を言おうか。オヤジの退屈な挨拶にならずに、これからの人生に“ためになる話”ねぇ……。
実は時々こうして「若者へのメッセージを下さい」と頼まれることはある。そんな時はいつも「夢を持とう」と言うことにしている。出た出た、と言われそうな一見ありがちなセリフだが、なぜ夢が必要で大切なのかを説明するようにしている。

その前に「なぜ君たちはこの高校へ進学したのか?」
いずれ社会へ出る準備として学ぶ、それが進学の本来の目的だろう。とはいえ、学生時代に人生の明確なビジョンなんて持っていないのが普通。自分も日々、その場の楽しさやラクな方を選んで生きていた気がする。
その学生時代はあっという間だ。自立心が生まれる中学あたりからが本当の意味での学生時代だとすると、中学3年間+高校3年間+大学4年間=長くても10年ほど。一方で、20歳前後で就職して65歳定年だとしたら社会人期間は約45年間。定年後も働くならもっと長い。後から振り返ると、学生時代は実に短いのだ。だから大切にしてほしいキーワードを3つ話そう。

「夢」
人生には地図がない。どこへ行こうと自由である。だが未来はあまりに広く漠然としていて、どこに進んでいいのかも分からない。そこで道標になるのが「夢」だ。
最初は好きなことが夢になりやすい。好きなことなら楽しく学べる。スポーツ選手やアニメーター、ミュージシャン……もっと知りたい、もっと上手くなりたい!と努力できることなら何でもいい。もしシェフになりたいなら、進む方角はある程度明確になる。その先で道はまた枝分かれする。フレンチ、イタリアン、日本食、パティシエ…etc. ここでもやはり「夢」が人生の道標になる。同じ夢を抱く仲間や友人が増えてゆく。夢はコミュニケーションの輪を広げてくれるのだ。
さらに、夢は大きくという意味では「君が立っている場所は世界へ繋がっている」とも言える。先日の東京オリンピック女子柔道で金メダルを取った素根輝選手は、南筑高校柔道部から世界一になった。
出会いや別れを繰り返し、結婚や子育てなど人生を歩む中で、夢は大なり小なり形を変えてゆく。たとえ当初望んだ形で叶わなくても、そこまでの努力によって別の夢が見つかったりもする。

「社会とは」
学校から社会に出る時には、どんな職種のスタート地点に立つのかも重要だ。でも学生にとっては、まだ「社会」というものが漠然としていてピンとこないだろう。社会とは、人と人があらゆる繋がりを持つことで形成されている共同体のこと。
例えば、地域の巨大ショッピングモールを想像してみてほしい。子供の頃から、家族とモールへ行くことが楽しみだった人も多いのではないだろうか。そこには多くの会社や店舗が関わっており、大勢の人が働いている。それぞれの店舗に商品があり、販売スタッフ、管理する社員、経営者がいる。衣食住に関わる店をはじめ、旅行会社、スポーツジム、銀行、クリニック、ゲームセンター、映画館なども入っている。建物内を警備や掃除する人もいるし、モールを建てた建設会社や設備管理の会社もある。そしてモール全体を経営している会社があり、その支店や本社がある……このように、異なる職種が技術や経験を持ち寄り、全体としてひとつの形を成している。つまり、モール自体が“小さな社会”と言える。
「では、もしあなたがショッピングモールで働くとしたら、どの仕事をしたいですか?」
これが職種を考える・就職する、ということだ。アルバイトですぐにできる仕事もあれば、勉強や資格取得が必要な仕事もあるだろう。就きたいポジションによって、必要とされる能力や努力の度合いも異なる。

「愛とは」
「夢」「社会」と来て、最も大切なのが「愛」だ。これがなんとも説明しにくい上に、愛という単語を使った途端に胡散臭くなってしまう。でも実際、愛がすべてだ! 唄の歌詞のようだが、本当にそれが一番大切なのだ。
世界はさらにデジタル化が進み、人は今まで以上にパソコンやスマホに依存する。コミュニケーションすらスマホを通すことが主流で、人間の感情も機械のようにクールになってしまう。いつでもどこでも誰かと繋がっているはずなのに、孤独を感じている人は多い。本来なら直接の触れ合いで生まれるはずの「愛」が、薄れているからだ。
日本は近年、引きこもりや自殺が社会問題になっている。そして毎日のようにどこかで事件が起きている。中でも「誰でもいいから殺したかった」という無差別殺人が起こる理由は、その人の心から愛が完全になくなってしまったからだ。世界のどこにも、愛せる人も愛してくれる人もいないと感じてしまう。自分を想ってくれる人、自分のために喜ぶ人も悲しむ人もいない。過去も現在も未来も、自分の中に愛を見出せない完全な孤独。そうなると生きている意味など感じられず、感情が歪み始め、社会や他人のせいだと被害者意識を持ってしまう。挙げ句の果てに事件まで起こしてしまったりする……。
愛がなくなるというのは、本当に怖いことなのだ。周りに大切な人がいるからこそ、心が優しさや道徳に守られ、今を頑張って生きてゆこうと思える。
愛ある自分でいるためには、やはり夢が関係してくる。夢を持ち、社会と繋がっていることが大切だ。夢があれば、自然に行動する力が湧いてくる。行動すれば社会との繋がりが生まれる。人と人を繋ぐコミュニケーションこそ愛であり、愛はコミュニティの土台でもある(我々FFも、小さいながらも“愛のコミュニティ”として社会と繋がっているわけです)。

というわけで、「夢」「社会」「愛」。
学生にはこの3つのテーマを伝えたいのだが……なんだかすでに随分退屈なオヤジの話に聞こえる。
クールな若者たちにこの話をどう伝えればいいのか、それが一番の問題ですなぁ~。いっそ音楽に乗せた動画をQRコードにしてGetさせた方がいいのかもな!