彩事季 ー 自分時間

自分時間

この世には、絶対に止められない物事がある。時間がそのひとつだ。宇宙が生まれた時から常に存在しており、刻一刻と過ぎてゆく。
基本となる単位は六十進法。60秒で1分、60分で1時間、24時間で1日。それから1週間、1ヶ月、1年。地球が24時間で1周し、宇宙の星の動きで暦が作られている。ほとんどの人類が時計とカレンダーを生活に不可欠な基準とし、依存している。もしかすると数十年くらい前は、ここまで時間という単位に縛られず生きている人々もいたかもしれない。今もアフリカやアマゾンなどの一部部族は、過去・現在・未来といった時間の概念が我々とは異なるという。それでも太陽の動きや季節の変化を肌で感じて暮らしているはずだ。

時間とは不思議なもので、気持ちや状況によって伸び縮みする。楽しい時は速く過ぎるし、辛い時間は長く感じる。
スマホがなかった時代、そこには「退屈」という時間があった。何もすることがない時や、ただの待ち時間である。しかしスマホを手にした現代人には、ただボーッとする時間や退屈というものが、ほぼなくなった。暇な若者はすぐにスマホを取り出し、ゲームやメール・LINEなど何らかの時間つぶしをしている。自分もスマホを持たずに病院の待合室で1時間以上待ったことがあるが、もはや瞑想や坐禅のような待ち時間だった。ついひと昔前までは、それが普通だったというのに、だ。今や、完全にボーッとしたければ意識的にスマホをオフにして時間を作らなければいけない。
便利な技術の発展により、現代人は同時にいろんなことをこなせるようになった。移動しながらスマホで映画を見る。パソコンでニュースを読みながら仕事をして、その傍ら、スマホで友達にメールを送る。2~3のことを同時進行するのは当たり前になっている。何もかもが時間短縮され、多くの人がせわしなく生きている。どう考えても、パソコンやスマホがなかった時代と現代の1日24時間が同じ長さとは思えない。効率化は処理時間を短縮してくれるけれど、1日の体感は短く感じるのかもしれない。

コロナによって社会に起きた変化のひとつが、「自分の時間を大切にする」という意識へのシフトだ。毎日電車に乗って会社に行かなくても、リモートワークで済む仕事がたくさんあることが分かった。通勤時間がなくなった分、自分の自由な時間が増えた。「もう、マイペースでいいんじゃない?」そんな現象がアフターコロナで起こっている。日本人は昔から勤勉で真面目な民族だが、社会的な関係性を保つために無駄に個人の時間を削ることが多かった。これからは、より欧米人のように個人主義や個人の自由を主張してもいいんじゃないか、という時代になってゆくのだろう。
自分も、仕事はもちろん、たとえ休みの日でもあれこれやることがある。それでもコロナ前に比べると今の方がゆっくりできている。テレワークなどで自分の周辺がまず変化したから、結果として自分もそうなったのだと思う。なにしろ私の仕事のスケジュールを立てるマネージャーも、その変化の一部だからだ。
セイコー時間白書という日本人の時間感覚に関する調査で、自分で自分の時間に値段を付けるならいくらか?というものがあった。自分のオンタイム(仕事や学校)とオフタイム(プライベート)の1時間の値段を自分で付けるのだ。結果として、オンタイムの1時間は4千円程度で、オフタイムはその2~3倍と圧倒的に高額。つまり自分の時間の方が仕事より大切、と考える人が多いということだ。さらにこれもコロナ禍の影響か、オフタイムの値段が過去の調査よりも上がっている。
私のオフタイムはというと、まず起きたら今日やることを決める。3つほど決めて、まぁ2つできればいいかなぐらいの気持ち。例えば今日なら「彩事季を書く、机の整理整頓、必要な物を買いに行く」といった具合だ。やることを決めないと、あっという間に日が暮れて、何もしないまま夜になってしまう。一方で、たまには「今日は何もしないでゴロゴロする」と決める日もある。

自分時間とは、極論すれば「生まれてから死ぬまで」。つまり人生そのものだ。

80歳まで生きるとしたら、
80×365=29,200日
29,200×24=700,800時間
700,800×60=42,048,000分
42,048,000×60=2,522,880,000秒
80歳とは「25億2288万秒の人生」ということになる。

今こうしている間にも、自分時間は何秒も何分も過ぎてゆく。まるで手の平からポロポロと人生の時間の粒が溢れてゆくように。「自分時間=人生」を豊かにする時間の使い方が大切なわけだが、そのためにどうしたらいいのか。正直、書きながらも答えは見えないのだが……。ひとつの考え方として、時計やカレンダーは一見我々を支配しているようにも思えるが、それらは自分があえて時間を区切るために使っているツールに過ぎない、とも言える。より人生を充実させるには、1日、1週間、1ヶ月、1年、それぞれの単位でスケジュールを立てると時間への意識が高まるのではないだろうか。そんなものに支配されないのが自由だ!と言う人もいるかもしれないが、今の世の中、文明をすべて捨て去るぐらいでなければ時間管理なしで生きるのは難しい。オンとオフ、義務と自由、社会と自分、家庭と自分。その境界線や心の切り替えをはっきり区別し、かつ、あまりきっちり決め過ぎずマイペースで。
時間は伸びたり縮んだりする。だからこそ自らの意思でコントロールすることが、「自分時間=いい人生」を作るのではないかな。