藤井画廊 第13回  

私のアートワークのひとつに、カレンダー制作がある。ご存知の通りFFメイルオーダー用カレンダーである。

毎年、秋が来るとスタッフから「来年のカレンダーはどうしますか?」と尋ねられ、「あぁ、どうしようかねぇ~」とやや投げやりな返答をする。なんせ12枚作らなければならない。これは結構な量なのだ。会社的な売上などというよりも、そこに「FFカレンダーが掛かってないと1年が始まらない」と思ってくれるFFメンバーがいる。そんな思いの方が強くて、来年のカレンダーはなし! などとは言わない。

いつから、そして何年作り続けているのだろうか。これまでCGだとか、透明なフィルムの絵を重ねてゆくもの、折って立体になるもの、やたらシールが多いもの……などなど、あらゆる形態で作ってきた。

ある年のこと。アイデアが尽きて、もう好き勝手に絵でも描いてみるかと思った。結果として、これがFUMIYARTの個展を16年ぶりに再開するきっかけとなったのである。

ふとNHKの「日曜美術館」を見ていたら、バーニー・フュークスの個展が特集されていた。それまで知らない作家だったが、素晴らしいセンスと技術の絵だなと感銘を受けた。会場が代官山のギャラリーだったので早速見に行くと、思った通り素晴らしい作品の数々に出会うことができた。そして、ひとつの作品を購入した。そこで主催ギャラリーであるアートオブセッションのオーナー、出川さんという白髪のおじさんと出会う。いろいろ話しているうちに「今はやってないんですが、実は自分も昔アートの個展をやっていたんですよ」と口にすると、「作品を見たいなぁ」と言ってくださった。最新作を手っ取り早く見ていただくために、まずはその年のFFカレンダーを出川さんに差し上げた。そうしたら「これは素晴らしい!」と、まぁ少々大袈裟に誉めてくださり、「毎年カレンダーを描かれているんですか? 他のも見たい」ということで、ここ数年分のカレンダーを見ていただいた。それから交流が深まり「いつか個展をやりませんか」という展開になり、2019年からのFUMIYART個展再開に至ったのだ。個展の話が出てからは自分も刺激を受け、盛り上がっていたのだろう。とにかく凄い勢いで絵を制作した。倉庫の中にある昔の作品をチェックし、新しい作品を制作した。久々にキャンバスに向かうといろんなアイデアも浮かんできた。こうして代官山でスタートした「The Diversity」が、現在も全国を巡回している流れに繋がっているのである。

今と昔のFUMIYARTの違いは、主催としてアートギャラリーが存在する。昔は事務所主催で、プロのキュレーターに入ったりしてもらいつつも、素人集団がやりたくてやっていた部分が大きかった。当時は、日本の美術界との繋がりなんてほぼゼロ。それが今では、ほぼ美術館で個展をやらせていただいている。これは出川さんがご尽力くださったことが非常に大きい。

さらに背景として、もうひとつ隠れた力も存在していると思っている。友人でもありアーティストでもある木梨憲武、ノリちゃんの力だ。というのも、自分が何年も個展をやっていなかった間もずっとノリちゃんは作品を作り、個展を続けていた。ノリちゃんのアートは徐々に大規模になり、さまざまな美術館で個展をやるまでになっていたのだ。自分が個展をやっていた頃は、日本の美術界では、あくまで“芸能人アート”くらいの見方しかされていなかった。日本美術界は敷居が高いのだ。それが時代と共に、今や現代アートはストリートのグラフティやアニメやマンガまで拡大した。アートオークションでKAWS(カウズ)がピカソ並みの高値で落札される時代なのである(余談だがNIGO®️の個人コレクションのKAWSが落札された価格は、なんと約16億4700万円。まだKAWSが無名な頃に描いてもらった絵らしい)。昔の美術界が好んだ美大卒の肩書きは必須ではなくなった。もちろん美大出身アーティストの技術と知識が羨むほど素晴らしいのは、今も変わらないが。そんな時代の流れの中で、芸能人であるノリちゃんは、いろんな美術館の門を開いてくれていた。つまり道なきところに道を拓いてくれたのだ。自分はその道を歩き、すでに開いた門から美術館に入っている感覚がしている。

さて、話が横道に逸れて長くなったが、「来年のカレンダーはどうしますか?」今年もまたその季節がやってきた。「2023年カレンダーかぁ……ん~、どうしようかねぇ~」。あくまで自由なアートとは異なり、カレンダーのための絵なのだ。毎月1枚めくると、あぁこの月が来たのだなぁとファンに楽しんでもらえる絵。

しかもメインである音楽の仕事の合間に制作するので、それ以外の人生の持ち時間と労力をその作業に充てることになる。単純に制作物として考えると、なるべく短時間で描けるような画材とモチーフを選べばいいのに、なぜか描き始めるとつい時間のかかることをやってしまう。それでもどうにか時間と労力を短縮するアイデアを模索する。サボっているわけではなく、意外にもそれが良いシンプルさや新しいアイデアに繋がるのだ。

例えば、2022年のカレンダーでは12人のエンジェルを描いた。エンジェルは裸なので服の柄を描かなくていい。翼の色は白だから、画用紙の白をそのまま生かすことができる。頭の光輪は金色1色なので、あれこれ色を選ばなくていい。光輪に入れた柄を目立たせるため、背景はあえてシンプルに1色のベタ塗りがいい。純真な少年像だから、モチーフとして女性はきっと好きなはずだとも思った。そのアイデアが出た時に、自分は天才だ!と思ったほどだ(笑)。

次のカレンダーも、手描きの12枚の作品になることは間違いない。描き始めたらしばらくは遊ぶ暇もないなぁ~。でも今やカレンダー制作は、自分にとってひとつのライフワークだと思っている。さあ、2023年FFカレンダーはどんな作風になるのだろうね?