FF SPECIAL INTERVIEW (1/2)

愛されてるなー、俺!
思った以上に素晴らしい景色だった

武道館を赤く染めた還暦ライブ「RED PARTY」を終えたフミヤ。
本人にとってもファンにとっても忘れられないものとなった特別な一日を、
あらためて振り返ってもらった。
また、11月にはニューアルバム『水色と空色』の発売が決定。
今まさにレコーディング進行中のフミヤにインタビュー。


還暦ライブRED PARTYを終えて

———RED PARTYは、素晴らしいライブになりましたね。

フミヤ(以下F):思った通りに、いや、思った以上に素晴らしい景色だった! ステージから真っ赤な客席を見たら、なんだこれ、すげーな!って。普段の武道館と全然違う眺め。素晴らしい決起集会だったね(笑)。「すごいことやらせてもらってるなー、俺」と思ったし、同時に、お客さんも絶対楽しんでもらえると思ったよ。みんなも、見たことのない光景が見られたはず。グッズの赤いTシャツを着てくれた人が多かったね。そして照明が落ちた瞬間に、一周ぐるりと赤い光り物だけが見える。あれは武道館ならではだよね。みんなもセットの一部になっているような感覚になってもらえる。実際、オープニングで客電が落ちた時の印象をcomu comuに書いている人が多かったな。俺はその瞬間ステージの下にいて、直接見ることはできなかったけれど。それにしても、今回あらためてFFというファンクラブのすごさを知ったというか。なんかもう「愛されてるなー、俺!」みたいなのが本当に大きかったね。

———それを実感したのは本番中ですか?

F:そう。ステージから真っ赤な会場を見て、「みんな全国から、こんなに赤を着て集まってくれたんだ」と。もちろんそれまでも、comu comuでも1ヶ月ぐらい前からみんなが徐々に盛り上がってきていたのは見ていたけどね。この赤い服を着て行きますとか、一人で行きます、友達と会います、久しぶりの武道館です、ネイルを塗りました、とかさ(笑)。みんな準備から楽しそうだなーって、見ていて面白かった。もちろん他にもTwitterとかFacebookとか外のSNSでも盛り上がってくれているわけじゃん。当日は渋谷の街頭ビジョンに「フミヤさん還暦お誕生日おめでとう」というメッセージを出してくれている人もいたりして。さらにライブから数日経っても、comu comuでは興奮冷めやらぬ感じで盛り上がっている。それだけいいライブだったと感じてもらえたんだなと、安心したよ。還暦ライブのために全国から集まってもらえて、しかも平日に。関係者からも、「ギザギザの3番で一気にファンがしゃがむような、あの結束力がすごいですね!」と言われた。動きが身体に入っているあの感じね(笑)。知らない人は「何? 何?」みたいに若干アウェー感を感じてしまいがちだけど、見ている分にも面白かったらしい。ACTIONツアーでやった時は、その振りを知らなくて置いてかれちゃう人もいたのよ。それで「あっ、ここで座るんだ」と学んでくれて、今回バッチリ決まったんじゃないかな。

———お祝いできる側の幸せというのもあります。ある知人が「フミヤさんのファンやスタッフは還暦までお祝いできてうらやましい。自分の好きなアーティストはもう活動していないから……」と言っていました。フミヤさんが還暦のお誕生日を武道館ライブで迎えられるというのは、ここまでの生き方の表れですよね。どこかで歌うことをやめていたらこの日は来なかったですし、活動規模によっては武道館ではやれませんし。

F:本当にそうだよなー。自分でも、チェッカーズの解散ライブから年月が経って、同じ場所で還暦祝いをしてもらうとは思ってもみなかった。まだここで歌っているんだという喜びもあるし、歌えている自分というのもいる。とにかく、60歳の誕生日を一緒に祝ってくれるファンとの一体感はすごかった。

———ライブ中は、やはり慌ただしい感じでしたか。

F:慌ただしかった! いかんせん1本だからね。予想通りだけど、本番中は慌ただしくて、始まったらすぐ終わった感じ。自分で自分に冷静になれ冷静になれと言い聞かせつつ、段取り通りに間違えず最後まで終わらせるという気持ちで進めていった。かといって極度の緊張もなく楽しめたよ。ゲネプロをやったとはいえ、ステージ上でどの曲でどう動いていいのかは決まっていないわけ。だから本番中は歌いながら、照明がこうなる瞬間には俺がこの場所にいなきゃいけないなとか、ここから外に歩いていった方がいいかなとか、間奏ではあっちだなとか、いろんなことを気にしながらやってたよ。途中からは、こっち側にはさっき行ったっけ?とか、同じ方向ばかり行っていないよな?と気を遣いつつ(笑)。

———センターステージならではですね。しかも何がすごいって、楽器演奏ならまだしも、歌詞を正確に歌いながらいろいろ考えるわけじゃないですか。

F:そうなんだよ(笑)。ここでライトが中央に集まるに違いない、とか予想しながら動いてた。ひとつだけ問題があったのは、イヤーモニターの耳への密着度が弱かったこと。密封されていないから外の音が入ってきてしまう。特にアップテンポは音量を上げちゃうから、外の爆音がガンガン入ってきてイヤホンから伴奏が聴こえないんだよ。混ざると音程がとりにくいから、時々イヤモニを押さえて外の音を遮断して確認してた。尚之は尚之で別のトラブルが起きていたらしくて、イヤモニの電波障害なのか子機の調子が悪かったのか。

マネージャー:切り替えたら大丈夫だったらしいんですが、リハやゲネも大丈夫だったのに、よりによって本番だけ起きてしまったという。

F:まあ、いろいろあるよな! 俺はそういう電波の問題はなかったからよかったけど。ああいう一発勝負の武道館で、100点で終わったことはそうそうないんだよ(笑)。リハで大丈夫でも本番で何かは起きてしまうものだから。俺の失敗はイヤモニの関係で、音が聴こえなくてちょっとずれたり、声を張り上げすぎた部分が少々あったぐらいかな。あとは比較的冷静にやれていたと思う。全体としてはいいライブだった。ひとつ、コロナ禍で観客の歓声がなかったことだけは残念だったけど。みんな「いい子」だったから、ちゃんと声を出さずに拍手してくれたね。

———ただ、抑えきれない歓声はかなり上がっていましたよ。それこそチェッカーズのブロックでは、「FINAL LAP」から「夜明けのブレス」まで毎回イントロで歓声が上がりましたし、チェックのスーツで再登場した瞬間など、それはもう。

F:あそこは一番歓声がすごかったらしいよね! そうか、俺はイヤモニをしているから、そういうのが全然聴こえなかったんだな。ここ数年でチェッカーズ初期の曲は歌ってきたけれど、今回の目玉として「あの娘とスキャンダル」を仕込んだ。やっぱり盛り上がったね。最近になってチェッカーズを初めてライブで聴く人もいるから、お互い懐かしさと新鮮さがある。ノリちゃんなんかは、レギュラー出演していた「夕やけニャンニャン」のテーマソングだったから喜んでたし(笑)。2時間半のライブだったけど、チェッカーズのブロックで結構エネルギー使った。「夜明けのブレス」あたりなんて、記憶がないもんな。

———WOWOWの生中継や配信もありましたが、ライブ中、その辺りは意識しました?

F:いや、ライブ中には中継や配信のことはほとんど考えなかった。普段は放送や配信を意識して、MCで話す内容に気を付けたり「ご覧の皆さん、こんにちは」とか必ず言うんだけどね。今回はむしろ、とにかく会場で目の前の人たちに楽しんでもらおう、満足してもらおう、ということに集中した。なぜならそうすることで、結果として画面で観てくれている人たちにも楽しんでもらえるライブになると思ったから。普段の武道館ともツアーとも全然違うし、この日限りの内容だからね。お祝いしてくれるファンのために歌うということで、MCも含めて身内感覚でやれた。

———映像や照明やレーザーが見事で、ステージそのものの造りも綺麗で印象的でした。

F:ゲネプロの時、八角形のステージを見て「こんなすごいもの作っちゃったんだ!」とインパクトがあった。今回はステージに映像を映すこともあって、バンドメンバーは下の段にいて基本的には上に出てこない。だからあの広いステージに俺一人なんだよ(笑)。そこが大変といえば大変だったな。過去のセンターステージではバンドはもう少し上にいたし、俺もギターと絡んだりしてたしね。まあ、一人といっても映像や照明があるから、だいぶ救われたけど。最新技術でやれることが増えているし、クオリティも上がっている。映像チームもギリギリまで調整して頑張ってくれたと思うよ。映像やレーザーは上から見た方がよく分かる。アリーナはアリーナで席番を見て「よっしゃー!」となるだろうけど、みんな後から録画や配信を見直しながら、こういう風になっていたのかと楽しんでもらえたんじゃないかな。

マネージャー:ステージに関して面白いのが、テクリハでステージがかなり広く感じられたんですが、ゲネプロで演者が乗ると広く感じないんですよ。そして一番は、そこで藤井フミヤという人がパフォーマンスしているかどうかで、ステージが全然変わるんです。機材や技術が進化しても、やはり“人”なんですよね。

———やはり、フミヤさんが立つことでステージに命が吹き込まれるし、その場を制して創っているのが、いわゆるスターということですよね。そして当日お客さんが入ってコンサートが100%完成する。

F:自分で言うのもなんだけど、客観的に音楽業界を見ても、あれだけ映像やレーザーを使ったステージで歌ったりパフォーマンスしたりできる日本人アーティストって、そうそういないんだよね。ジャンルや方向性から見てもPerfumeぐらいじゃないかな。

マネージャー:しかもフミヤさんは振り付けじゃなくフリースタイルのパフォーマンスで、演出も自分でやっていますから、ソロシンガーとしては唯一でしょうね。そういえば、バラードなどで歌いながら360度回っているのを見て「ステージが回転してるんだと思った」という方もいました(笑)。

F:ああ、あれはやっぱりそう思うだろうね!(笑) ステージセットも豪華だから、当たり前に床ぐらい回転しててもおかしくないし。実は足だけで少しずつ動きながら回ってるんだけど。センターステージは360度が全部正面だから、そこでちゃんと全方向に回りながら歌うっていうのは工夫が必要なんだよ。「未完成タワー」も、武道館で歌うために作った歌だから気持ちよかった。この曲はいいタイミングでできてくれたね。紙飛行機も赤一色というのは初めてだったし、すごくいい景色だった。

———紙飛行機は急遽持ち込み禁止となったことで、アルバイトの皆さんが3日ぐらいかけて折ってくださったそうです。あとはステージに登場されたゲストの方々も、ライブをさらに盛り上げてくれましたね。本編ラストでは、過去のツアーでご一緒していたパーカッショニストのスティーヴ エトウさんが登場。

F:スティーヴとは「遊びに行く」「じゃあ旗でも振りに来る?」って話していて、数日前に実際「旗、本当に振る気満々なんだけど」って言ってくれたからお願いした(笑)。ゲネプロの時、監督に「スティーヴが旗を振りに来るらしいけど、どこで出てもらおうか?」と相談して、じゃあラストにしようと。スティーヴは「とにかくコケないように気を付ける」って言ってたよ(笑)。さすが、カッコよかったよね。

———銀色の旗をはためかせて走る一歩一歩まで美しくて、さすがのパフォーマンスでした。また、アンコールの「友よ」では、お馴染み木梨憲武さんとヒロミさんがお祝いに駆け付けてくださいました。

F:アンコールは、いろいろと盛り上がる要素が満載だったね。まさかの水谷豊さんも来てくれて。ノリちゃんとヒロミの出てくるところは、もう時間も読めないフリーな感じ(笑)。ゴルフセットももらったし、いよいよ本当に始めなきゃいけなくなったね(笑)。まずはレッスンを受けるところからだな。

マネージャー:水谷さんは驚きましたね。現場でノリさんが誰か連れていらしたなーとは思っていたんですが、ハットを被っていたので分からなくて。

F:そうなんだよね。完全にサプライズ。笑えたなー。そのまま一緒に水谷さん70歳のお祝いまでしてしまうという。今回は節目のライブということで、久しぶりに来てくれた友達や関係者も大勢いた。お互い再会が嬉しかったよ。ライブが終わって、俺としてはカウントダウンライブ後みたいな「終わったー!」という解放感があったんだけど、年始じゃないからスケジュールがパンパンで休む間もなく日常に戻った(笑)。

還暦を迎えて

———今年は各種メディアでも還暦の話題が多く、ご自身でも以前から60代について考え語ってこられました。今、実際に迎えてみて、いかがですか?

F:みんなに「おめでとう」と言ってもらって、ああ60になったんだなというのはあるけど、あんまり実感や変化はないんだよね。気持ちは40代や50代とほとんど変わっていないから。ただ肉体的な変化を無視したら、えらい目に合うだろうなと(笑)。今回も、ライブの1ヶ月前からジムに通って準備したわけ。だってセットリストを出した時に、「俺、この内容で大丈夫かな? 倒れないでやれるのか?」と(笑)。チェッカーズは全力でいかないといけないしさ。運動していたおかげで、そんなにバテることはなかった。今さらながら、運動したり風呂やサウナに入ったりした後の気持ちよさを初めて味わってる。人生でこんな気持ちいいものがあったのか!と(笑)。泳ぎは子供の時から得意だけど、呼吸器にもいいしね。ランニング後にプールでクロール10往復ぐらいやって、今はいくらでも泳げる感じ。ただし調子に乗って長時間やると疲れるから、程よいところで終える。とにかく運動は身体にもメンタルにもパフォーマンスにもいいのが実感できているから、次のツアーに向けても習慣として続けていくよ。

———アンコールラストのMCが印象的でした。「未完成なまま死んでいきたい。なぜならそれは夢を追っていたということだから」と。還暦で集大成を見せるのではなく、今なお未完成というのが痺れました。

F:おおっ、いいこと言ってるね、俺!(笑) だってもう、本当に全然完成なんかじゃないからね! 完成なんて一生しないでしょ、きっと。

———これは、当日その場で感じたことですか?

F:うん、その場で思って言葉にしたことだね。

マネージャー:他の取材でも言っていないので、武道館で初めて聞いた言葉でした。

———ここから追う「夢」とは?

F:夢はやっぱり、まずは古希まで歌い続けることだね。古希で歌っているということは、単に10年後にライブをするということじゃなく、10年間ずっと歌い続けているということだから。この10年、さすがにいろいろ起きると思うよ。俺じゃなくても俺の周りに起きるかもしれないわけだし、上の世代には亡くなる人も出てくるだろうし。いろいろある上で、古希まで歌っていられたら最高なことだよね。ここからシングルやアルバム1枚1枚をどうするか、どういうライブをやるか、ひとつひとつがさらに大事になっていくはず。ビジュアルも、30代と40代はそんなに変わらなくても、ここからはさすがに変わる。これまでは「元気そうなオヤジ」だったのが、「元気なジジイ」になっていかないと(笑)。なんだろうなー、俺も年相応な渋みを増してナイスミドルな感じになるのかね?(笑) その時どういうファッションをして、どういうスタイルでコンサートをやっているのか、というのもある。この歳でこうなりたいという目標とか具体的なことはあんまりない。健康第一で歌い続けるという軸はあるけれど、もともと計画を立てるよりは、来た波に乗って、その結果いろいろやれているタイプかも。

———完成しないとはいえ、何をもって完成形だと思いますか。

F: “夢を追い続けて好きなことをやりながら、幸せなまま死ぬ”というのが、ひとつの理想であり完成形と言えるのかもしれない。幸せというのは、何かすごく特別なことじゃなくて、不幸がなく穏やかな状態というイメージ。昔からよく言ってる、日の当たる縁側で伸びをしながら倒れて、本人は何も分かってないうちにあの世に行く……みたいなのは最高。人生100年時代とはいえ、さすがに還暦になると、そういうこともうっすらイメージし始める。まあ本来、いつ死んでもいいように生きていればいいんだろうけどなぁ。ただ長生きすればいいんじゃなくて、やっぱり健康寿命が重要。今は情報が多すぎて、何が本当に健康にいいのか正解が分かりにくいけど。まあ結局、ストレスなく暮らしているのが一番長生きできるんだろうなとは思ってるよ。歌っていくこと自体が幸せだしね。とにかく歌える限り、歌っていく。

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