彩事季 ー 客観視

客観視

自分を客観的に見る――人生において、時々は必要なことなのではないだろうか。

自分の人生なので人にどう思われようが関係ない! という考え方もあるだろうが、やはり社会の一員として人々と共存して生きているわけだから、多少は他人様からどう思われているのかも気にかけた方がいいだろう。嫌われるよりは好かれた方がいいわけだし。
とはいえ、人間というものは自分のことは自分で気が付きにくい。昨今のSNSやネット上での無遠慮な投稿や攻撃は、自分のことを棚に上げて他人のことをとやかく言っている例である。こんな世の中だからこそ、自分のことを客観的に見て、考えてみることも大切なのではないか。

というわけで、還暦を迎えた今の「藤井フミヤ」を客観視してみよう。

私には職業柄、二面性がある。藤井郁弥と藤井フミヤである。みんなが知っているのは当然、「フミヤ」の方だ。とはいえ、両者にそれほど差はないと思っている。ここであえて自分で客観視した文章を書いてみたところで、君たちにとっては「えっ!?」なんて驚くことはほぼなく、むしろ「そうそう!」と思うことばかりかもしれないが。

さて!「藤井フミヤ」かぁ……。
まずは、すでに40年も歌手をしている。今や芸能人としては年長な方。若い子たちから見ても物心ついた時から存在しているわけで、チェッカーズは知らなくても藤井フミヤは知っているという世代もいる。

見た目について。年齢よりは若く見られる。還暦に見えない男性芸能人1位だったし。でも、これといって特別なことはしていないので、コンサートで歌うパワー自体がアンチエイジングになっているのだろう。大声で歌って、叫んで、飛んで、跳ねて、回って……そりゃストレス発散してるよなぁ。ということは、ストレスを感じないのが若さの秘密なのか? いや俺だって多少のストレスくらいあるけどね。
ステージで歌っていなければ、ただの小さなおじさんだな。ここから先、縮んでゆく可能性もあるか……猫背気味なので背伸びを心がけよう。体重は20代の頃から変わっていないが、最近、妙に甘いものが好きになってきている。年間を通して歌っているので、健康にはそれなりに気を使っている。

歌という芸で生計を立てているので、一応「芸能人」ではある。ただ、この芸能人という名称は、世間一般的には「有名人」「テレビによく出ている人」を指す。ひと口に芸能人と言っても、職種はかなり多岐に分かれている。ミュージシャン、俳優、タレント、コメディアン、司会者、コメンテーター…etc. ここ最近、仕事でそういう人たちに会う機会はほぼない。俺も可愛いタレントさんや綺麗な女優さんに会ってみたいなぁ~なんて思ってしまうほど、いわゆる芸能界とは程遠い職場にいるのだ。
テレビにあまり出ない歌手が普段は何をやっているのか、世間の多くの人は細かい活動は知らないだろう。「いいですねぇ~、ゆっくり仕事されてて」みたいに思われることも多いが、いやいや、還暦過ぎてもめちゃ多忙なんですけど! 曲を作り、それを売り、コンサートをやる、というのが基本的な仕事。時々はテレビにも出るが、それは歌のプロモーションの一環。今や、You Tubeなどで過去の映像を見られることの方が多いのかもしれない。

では、本業の歌はどうか。客観的に見て、明らかに若い頃より上手くなっている。ポップスシンガーなので、ロック、ダンス、バラード、ポップスと、あらゆるジャンルの曲が歌える。少年の恋から、いぶし銀のオヤジの愛まで歌うことができる。さまざまなバンドの形態で歌ってきた。ギター1本からオーケストラ、独唱まで、すべて経験している。
強いクセはなく、低音から高音まで聞き取りやすい声質と滑舌だと思う。そうなるように気を付けて歌っているから、そう聴こえるのだけれどね。
パフォーマンスは、適当なダンスではあるが、わりと踊れる。今時のダンサーのようなパフォーマンスではないが、ソロボーカルのフリーパフォーマンスとしては“踊れるシンガー”な方だろう。

ファッションセンスは、比較的いい方ではなかろうか。子供の頃から培われた“ファッション好き”が、今でも役立っている。ただ、あまり奇抜なデザインや色の服は着なくなった。もう買わなくていいだろうと思うくらい黒い服ばかり持っている。

そして、性格やものの考え方。これはいくらでも挙げられる。
もっとカッコつけてもいいのだろうとは思うが、どうもカッコつけるのが苦手。実は目立つことは得意ではなく、謙虚とか地味とか控えめが好きだったりする。
人に対しては優しい方だと思う。控えめなので、優しさを押しつけはしない。
人の悪口は言わない。人は人なのだから、自分と関係がないなら知ったこっちゃない、と思っている。
神仏は信じているが、これといって決まった信仰はない。
仕事に関しては実に真面目である。本当に真面目なんですよ! ここまで長くやってこれた最大の理由は、真面目だったからだろう。
プライベートでは決して大騒ぎすることはなく、常にクールというか穏やか。思い切り盛り上がれるライブの時とは違い、プライベートで「イェーイ!」というテンションになることはほぼない。せいぜい、ホークスの試合でホームランが出た時ぐらいだ。
全然ストイックな人間ではない。ずぼらで細かいことはあまり気にしないが、だらしなくはない。とはいえ、気になってしまうことに関しては、バカみたいに細かかったり長引いたりすることもある。

計画性はあまりない。数字やお金が苦手。
読書は好きだが、説明書や契約書類を読むのは面倒くさい。
苦手なことは遠ざける。人に何かを任せることができる。
人を騙すことはないが、人をすぐ信じやすい。
欲望に流されやすかったが、最近は我慢できるようになった。
年々イケイケな部分が減って、慎重になっている気がする。
手先が器用で、何でもできる。
絵が描けるが、まだまだ発展途上な作品ばかりだと思っている。
これからもまだまだ歌う気でいるので、健康が何よりも大切だと思っている。歌えなくなったら絵でも描こうかと思っているが、歌えなくなるってことは絵も描けないんじゃないか? とも最近思う。
好き嫌いなく何でも食べる。アルコールをさらに減らしたいなぁ~と思っている。そろそろタバコをやめなきゃなぁ~と思っている。
これからの未来をどうしようかと考えることもあるが、なるようにしかならんだろう、とも思っている。
最近、世の中の新しい物事に付いていけない気がしている。発達し過ぎたIT文化は、便利なんだか不便なんだか。
これからの人生を楽にするためには英語を勉強しなきゃと思いながら、何もやらないでいる。海外旅行くらいならスマホの翻訳アプリでどうにかなるっしょ!
身体が自由に動く時期を考えると、ここからの10年が大事だと思っている。
あっという間に人生は終わるものだと常に思っているが、まだまだ死ねないと思っている。

いざ自分を客観視してみると、次から次に出てくるのできりがない。たまにはこうして棚卸しするのも大切なことだ。

今のところ、自分は幸せな人間だよなぁと思っている。そう思えることが何よりだろう。
「藤井フミヤ」って、まぁこんなヤツですかね。
君は俺のこと、どんなヤツだと思ってる?
君は君のこと、どんな人間だと思ってる?