彩事季 – ロックの日

今、私は40周年コンサートツアーで全都道府県、津々浦々を巡っている真っ最中である。2023年だけでも、すでに20箇所以上を回った。40周年ということで、チェッカーズ、F-BLOOD、藤井フミヤとさまざまな楽曲を歌っている。コンサート会場はどこもお祝いムードで、お祭りのような盛り上がり。おかげさまでチケットもほぼSOLD OUT状態だ。

そんな折、事務所から「40周年の最後に武道館をやりますか?」と打診があった。「周年の最後が武道館かぁ」。延期になった北海道の振替公演も2本あるし、体力的にも、これ以上増やして大丈夫だろうか。還暦祝いでRED PARTYをやったばかりだし……。
でも、あの時はまだコロナの影響で、観客は声を出すことができなかった。凄く盛り上がってはいたが、本来のコンサートの姿ではなかった。武道館が揺れるくらいの大歓声を聞きたい。40周年の締めくくりとしても、武道館こそ最高のステージだろう。
「よし! やろう」そう決心した。

それから数日かけて、武道館・バンド・コンサートスタッフなどのスケジュールを調整した結果、日取りは6月9日に決まった。偶然にも、語呂合わせで“ロックの日”。しかも61歳で、60本のツアーと武道館の61公演となる。なんだか縁起がいい。

開催が決まると、次なる課題はステージの形態だ。当初は、現在使っているステージセットや照明をそのまま大きくするのがいいだろうと考えた。しかし、会場が揺れるほどの歓声をイメージすると、やはり360度の客席、つまりセンターステージの方が絶対に盛り上がる。
今のステージの拡大か、それともセンターか……。センターになった場合、舞台セットや照明がすべて変わる。同じセットリストだとしても、見え方はまったく違うものになる。多少の曲変更を想定すると、あらためてリハーサルも必要になる。モニターも、イヤーモニターを使うことになる。360度の客席は、ちょっと後ろを向いて休むこともできない。ステージ自体も円形になるので、左右や端というものがなく、ぐるぐる回ればある意味無限。つまり、通常のコンサートより体力が必要だ。
ステージの形状を決めるのは今年中でよいと言われたが、各所で準備が必要になるのだから、早い方がいい。
最後の北海道のコンサートが6月1日だから、武道館まで8日間はある。大丈夫! いける! センターステージという試練を乗り越えよう! やっぱり、藤井フミヤで武道館と言えばセンターステージだろう!
意を決して、センターステージを選択した。

八角形の武道館。鮮やかな照明が、万華鏡のように大きな曼荼羅を創り出す。真ん中に自分が立ち、そこに向かって観客のパワーとエネルギーが集中する。みんなの念力で俺は浮くんじゃないか?と思うほど、それはそれは巨大なパワースポットが誕生する。

歌いながら回るので、観客は自分のいる場所が、時には私の前、時には横、時には後ろということになる。RED PARTYでセンターステージのパフォーマンスを見たスタッフが、「あれってステージが回っていたんじゃないんですか?」「俺が自分で回ってるの」「えーっ、そうだったんですか!」と驚いたことがあった。そう、1曲の間に自分で回転しながら360度に向けて歌っているのだ。本人は、東西南北も前後左右も分からなくなっているのだが。
先日、コンサートを見に来た友人から「客席を見ているのも楽しい。盛り上がっているお客さんの笑顔を見ていると、幸せな気持ちになる。ずっと客席を見ていてもいいくらい」そう言われた。その気持ちはよく理解できる。私自身は自分のコンサートを見ることはできないが、コンサートを見ている観客の顔は見ることができる。というか、それしか見ていない。客席のみんなは、最高に楽しそうな笑顔をしている。それを見られるのは演者の特権だ。
ところがセンタースタージの場合、観客もそれを体感することができる。なぜなら、ステージの向こう側にも3階までびっしり観客で埋まっているからだ。それもあって、あれほどの一体感と盛り上がりが生まれるのだろう。

2024年6月9日、ロックの日。
武道館が揺れるくらい巨大なパワースポットを、一緒に創ろう! 
みんなのエネルギーで、俺を空中に浮かせてくれ!