藤井画廊 第20回

「デ・キリコ」

「デ・キリコ展公式図録」©︎2024 朝日新聞社

上野の東京都美術館に「デ・キリコ展」を観に行った。ジョルジョ・デ・キリコは20世紀を代表するイタリアの画家(1888-1978)。シュルレアリスムの先駆者で、形而上絵画(けいじじょうかいが)の作品が有名だ。形而上絵画では、遠近・配置・時間・物質・光などが、あえて焦点をずらしたような現実とは異なる描き方をされていて、なんとも不思議な世界が魅力だ。

私の絵は、実はデ・キリコの影響をかなり受けている。出会いは画集。初めて目にした時、シンパシー的な衝撃を感じた。自分の作品では、1997年の「DIGITAL MASTURBATION」シリーズからその影響が現れ始め、2000年の「KIRIE」や「HARIE」シリーズあたりからは、自分なりの形而上絵画的な傾向がさらに強まる。例えば、人体をロボットのパーツのように分解して描くようになった。女性の裸体の美しい曲線を残しながらも細部を分解して描くのは、FUMIYARTの個性のひとつである。今回の回顧展では、初めてたくさんのデ・キリコの作品を観ることができた。やはり大いに影響を受けているなと、あらためて感じた。

DIGITAL MASTURBATION-KIM

KIRIE「NAP」

美術展へ行くと必ず作家のパワーに触発され、家に帰ってすぐに絵を描き始める。創作意欲に火をつけられたことで、頭の中に何らかの構図が浮かんでくるのだろう。
今回はというと、大きなキャンバスに油絵を描くことにした。あらゆる画材の中でも、油絵具は個人的に一番不得意で手間がかかる。油絵の画材は、ある程度学ばないと上手く使えないのだ。自分の場合は教則本のみで実践しているので、なかなか上手くいかない。とはいえ自己流でもう何点も描いてはいるが。
とくにキャンバスに描く時は慎重になる。なんせ時間と労力がかかるので失敗はしたくない。まず念入りに紙にデッサンを下描きし、それをキャンバスに描き写す。といっても下描き通りではなく、常にその時の発想で変わってゆくのが絵の面白いところだ。次に、ジェッソという塗料でキャンバスに白く下塗りをする。それから鉛筆で下描きをし、背景を描き足してゆく。エプロンを着用して道具を揃え、いよいよ絵具をパレットに出す。部屋がほんのり油臭くなる。よし、行くぞ!と、ここから気合いが入る。あとは描いては乾かす、を繰り返す。
出来上がるまで、少なくとも2ヶ月はかかるだろう。油絵具はなかなか乾かないので完成時期が見えない。ひょっとすると半年くらいかかる可能性もある。油絵の技術が向上すれば、もっと早く描けるのだろうなぁ。ピカソなどは数時間で描き上げてしまうこともあったかもしれない。

絵は登山に似ている   描き始める時いつも思う。山は、登り続けさえすれば頂上に着く。絵も、いつかは描き上がる。「デ・キリコ展」に触発されて描き始めたこの絵も、いつかみんなに披露することができるだろう。