コンサート三昧の2025年。だいぶ“旅”も進んだ
年内は残すところ5本となった、47都道府県コンサートツアー 2025-2026 FUTATABI。
一期一会のステージを各地へ届けながら、ファンとともに“旅”を続けているフミヤ。ツアー前半を終えつつある所感や、アンバサダーに就任した「クリムト・アライブ 大阪展」への想いほか、今感じていることを語ってもらった。

●日本地図、赤の面積が増えてきた
———4月に始まったFUTATABIツアーも、半分まで来ました。
フミヤ(以下F):だいぶ“旅”も進んできた。行った都道府県を日本地図で塗りつぶしているけど、かなり赤く塗られた面積が増えてきた。なんとも達成感があって嬉しいんだよ。とくに岩手や福島みたいな広い県は、めっちゃ塗り甲斐がある。きっと来年、岐阜を塗りながら「よし、これで一気に日本列島の真ん中が埋まったぞ!」とか思うんだろうな(笑)。東京や大阪はびっくりするほど小さくて、よくこんな狭い面積に人がたくさん住んでいるよなぁと思うよ。他にも、県境とか隣の県との違いとか、自分なりにいろいろ感じながら塗っている。ここ最近行った場所で印象的だったのは、秋田の会場に隣接した公園で前日にクマが出て捕まったこと。今年の被害が大変なのはニュースで知ってたけど、ものすごくリアルに感じたよ。駅からすぐ近くの公園なのになぁ。あと、体調面で、この間ちょっと危ういことがあった。神戸公演の2日前に、なんかだるいなと思っていたら熱が38度5分ぐらいに上がって、うわーっヤバい!と。でも喉の痛みや咳のような症状はなくて、なんだろう?って。一応マネージャーとは、公演前日の時点で熱が下がらなかったら何らか対処しようと話してたんだけど、公演前日に、あれっ?というぐらい熱が下がった。そしたらなんと、熱が出る2日前に打っていた帯状疱疹ワクチンの副反応だったんだよ。腕も腫れて。でも副反応が1日で落ち着いてよかった。病院の先生からは「副反応が強く出るのは、身体が若い証拠だよ」って言われたけど(笑)。とにかく、神戸が無事にやれて安堵したよ!
———よかったです。ツアー中で体調管理も徹底しているから、回復が早かったのかもしれませんね。
F:そうだね。不摂生してないから、それはあるだろうな。何があろうと1週間で次の公演が来るからね。いつでもどこででもうがいができるように、常にうがい薬を持ち歩いている。年末の飲み会とかも気を付けないといけないし。でも、もともと今回のツアーは余裕をもって日程を組んでくれたから、体力的にもちょうどいい。程よくオフもとれているし。
———comu comuでも書かれていましたが、最近のオフでの旅行はいかがでしたか。
F:淡路島と福井に行ってきた。淡路島は、伊弉諾神宮に参拝するのがメインの目的。伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)の二神を祀っている、日本最古の神社とされている場所。そんな重要な場所に、お参りできてよかった。福井には、蟹を食べるためだけに弾丸日帰りで行ったんだよ(笑)。知り合いが「蟹のお店、予約できたから行かない?」と誘ってくれて。なんせ蟹だから、一緒に行ってもほぼ無言の食事会だけどね(笑)。たまにはそうやってパッと日帰りするのもいいもんだなぁと思ったよ。


●クリムト好きとしては光栄
———ツアー以外では、10月にエフエム愛知パーソナリティー・黒岩唯一さんのイベント「黒ちゃん大感謝祭」に尚之さんと出演されました。
F:これはね、俺も長年お世話になっている黒ちゃんが以前からずっとフェスをやりたいやりたいと言っていて、一度コロナで中止になったのが今回ようやく実現したんだよ。驚くのが、黒ちゃんは歌手じゃないのに歌で絡んでくるからね!(笑) 。例えば「葉加瀬太郎音楽祭」で、歌にバイオリンが入るのはなんの違和感もないじゃん。でも黒ちゃんの場合、全出演者の歌に歌で入ってくる。俺は「ギザギザハートの子守唄」だったからいいけど、河村隆一くんのバラードとかにも絡んでるのが笑えた(笑)。黒ちゃん、ついに念願叶ってよかったね!という感じだった。
———また、12月から始まる「クリムト・アライブ 大阪展」のアンバサダーに就任されました。
F:クリムトはもともと好きな画家だから、お声掛けいただけたことは光栄で嬉しい。オーストリアまで作品を観に行ったし、お墓参りもしたし、推し活だよな(笑)。「クリムト・アライブ」は東京で開催された時に観たんだけど、なかなかユニークな企画なんだよ。本物の作品が展示されるわけじゃなくて、壁や床全体にクリムトの絵の映像が広がって、その中に没入できるというもの。これほど絵の細部を大きく観られる機会はないから、とくにアートやクリムトが好きな人は面白いんじゃないかな。場内にはクラシック音楽も流れているから、映像と音楽が合体して、オーストリアの芸術を全身で浴びられる空間。写真撮影もOKだし、若い子やSNSをやっているような人も好きなタイプの展示だと思う。クリムトは背景の模様まで細かく描き込むタイプの画家だからこそ、映像になった時にも楽しめる。こういう企画に向いた作品や画風ってあるからね。クリムトの金色は琳派の影響もあると言われているんだけど、俺はどちらかというと金色よりも柄の方がジャポニスムの影響を受けているんじゃないかと思っているんだよね。クリムトの描く細かい柄からは、着物を重ね着したような感性を感じるから。それにしても、映像テクノロジーの進化はすごいよ。どこからどう映したらこうなるんだろう?って、そういう新鮮な驚きもある。
———最新技術によって、アートの楽しみ方が広がっていますね。フランスにアトリエ・デ・リュミエールというデジタルアートの施設があり、それこそクリムトやいろいろなアート映像の企画をやっているので、今回それを思い出しました(※2026年には関連施設が東京にもオープン予定)。
F:最近、アートの映像イベントが人気だよね。日本でも少し前にゴッホのをやっていたし。もしクリムトが今これを観たら、絶対喜ぶだろうなと思ったよ。未来で、自分の作品がこんなことになってる!って。ちなみに、過去に観たクリムト展(※東京都美術館「クリムト展 ウィーンと日本 1900」)では、恋人と言われていたエミーリエを描いた絵や、彼女へのラブレターも公開されていた。でも俺の考えでは、彼女からすると、クリムトはいわゆる恋人ではなかったように思うんだよね。クリムトの方はぞっこんだったかもしれないし長年付き合いはあったらしいけれど、彼女は一線を引いた特殊なパートナーシップというか。クリムトは複数のモデルと関係を持っていたようだし、アトリエには常に綺麗な女性モデルが裸でそのへんにいるわけだしね。もちろん、真実は本人たちにしか分からないけど。そうやって、作品だけでなく画家の人間的な部分を知ったり想像したりするのもアートの楽しさだと思う。
———FFメンバーの皆さんにも、ツアーでの遠征や旅行と合わせて楽しんでいただけることと思います。


●先輩アーティストから学ぶこと
F:この間、矢沢永吉さんの東京ドームでの50周年コンサートに行ってきたんだよ。開演前、キャラ化された矢沢さんがスクリーンに出てきて、注意事項を言ってた(笑)。コンサートに行くのは2回目だけど、相変わらずファンの“永ちゃん祭り”はすごかった! 独特で、矢沢さんのライブにしかない世界だからね。始まる前から、あちこちで永ちゃんコールが起こるわけよ。そしてライブ中も、バラード以外は前奏も間奏も後奏もずっと「永ちゃん、永ちゃん」ってコールが続く。野球の「かっ飛ばせー!」みたいな感じで、客席はスポーツとコンサートが合体しているような雰囲気。永ちゃん好きのドーム大集合だからね。ファンの5分の1ぐらいが白スーツとハットの永ちゃんスタイル。夫婦で来ている人もいるんだけど、奥さんがまた旦那と似合いの雰囲気なんだよ。若い時からずっと二人で永ちゃんファンなんだろうね。とくに永ちゃんは、昔いわゆる不良と言われたような人たちのカリスマみたいな人だから、あれだけのファンをまとめるのは大変だったと思うよ。永ちゃんが兄貴分であり象徴であり、他にはない存在だよね。もちろん俺も、ものすごい影響を受けて音楽を始めるきっかけをもらった人だし。
———すでにお互い長く現役で活動している同士なわけですが、ステージはいかがでしたか。
F:矢沢さんは、やっぱりめちゃめちゃリスペクトを感じるボーカリストだなと、あらためて思った。76歳にして、声量も音程もしっかりしてるし、パフォーマンスもあるし、スタイルもいい。しかもファンサービスもする。この上ない努力の結果だというのが分かる。このまま行くと80歳でも絶対歌ってると思う。もうひとつ驚いたのが、その東京ドーム公演がツアー初日なんだよ。しかも生中継も入れてる。ロックというジャンルだからできるのもあるだろうし、周年だから歌い慣れた曲が多いとはいえ、すごいことだよなぁ。あと、矢沢さんの前に山下達郎さんのコンサートにも行ったんだよ。俺の仙台公演の前日に同じ会場で達郎さんだったから、観に行かせてもらった。矢沢さんとは対照的なステージを観ることができて、どっちもよかったよ。達郎さんは、昔から全然変わらない綺麗な歌声が素晴らしかった! アリーナやドームでは絶対やらずホールのみという主義なんだけど、これは俺もすごく共感する。歌い手としても観客としても、ホールくらいの距離感が好きだな。達郎さんのファンは、いわゆる音楽オタクなタイプが多いと思う。AORやブラックミュージックとかにもみんな詳しそう。もともと音楽好きな人たちが、達郎さんの影響でさらにそうなっていったんじゃないかな。でも見ていて不思議だったのは、ほとんどの曲が踊れるビートなのに、みんな踊らず座って観てるんだよ。達郎さんも基本的には座って観てくださいというスタンスで、最後のブロックだけは立ってもいいらしい。観客も、過去にディスコやクラブに行って踊っていたタイプの人たちじゃないしね。とにかく、歌や音楽をしっかり味わえるコンサートだった。
———今の矢沢さんや達郎さんから、今のフミヤさんだからこそ感じられるものがあるのでしょうね。
F:そうなんだよ。最近とくに思うのが、若い人から学ぶことよりも、現役で活躍している先輩アーティストから学ぶことが大きいなということ。活動の内容もだけど、これからも、先輩方のステージをなるべく観ていきたいなと思ってる。サザンオールスターズとか中島みゆきさんも観てみたい。とくに年上の方々は、たとえ元気でも急に引退しちゃうことがあるし。もちろん若くても引退する人はしちゃうんだけど。だから、観てみたいアーティストがいたら、観られる時にすぐ観た方がいい。毎年コンサートをやっているとも限らないんだから。

●時代や年齢とともに価値観は変わる
F:気になったら観に行くという点では、この間、大島くんが杉山清貴&オメガトライブに行ってみたんだって。これまで聴いたことはなかったらしいけど面白そうだからって。思いっきりシティポップで、シモンズの電子ドラムの音とかも含めて、すごく面白かったらしいよ。ここ数年日本のシティポップが世界中で流行ってるじゃん。オメガトライブもそのカテゴリだからね。YouTubeで世界中の曲が聴けるようになったことで、海外の人が竹内まりやさんの曲を見つけて、これいいじゃんってことで流行った。それが日本に逆輸入されてシティポップブームになった。他には山下達郎さん、杏里さん、EPOとか。もう、いつ何がブームになるか分からないもんだよなぁ。基本的にはアメリカのAORを邦楽に取り入れたサウンドだから、オシャレ感があって、ちょっと小難しいコード進行が入っていたりする。当時聴いていた人はあの時代感を思い出すし、若い人には新鮮に聴こえるだろうね。
———あの頃の豊かだった日本の余裕ある空気をまとっていますよね。内省や閉塞感ではなくオシャレで開放的、恋愛すらファッショナブルみたいな。
F:そうだね、今シティポップと言われる曲が生まれたのは、まさにバブル時代だからね。ワンレン、ボディコン、W浅野みたいな(笑)。それこそクリスマスなんて、男はレストランやホテルの予約争奪戦で必死だった時代でしょ。それが男の恋愛マニュアルみたいな。
———しかも今ならスマホひとつで済みますが、当時は雑誌や友達から情報を仕入れて電話予約だったでしょうし。ただ、バブルを味わった方々は人生の楽しみ方をひと通り知っているからこそ、今でもいいものを見つけるのが得意だと感じます。
F:ああ、それはあるね。いろいろ知っている上で今はそれを選択してもいいし、しなくてもいい。時代とともに価値観も変わって、最近はクリスマスは自宅でリラックスして過ごしたり、好きな場所で自分らしく楽しむ人が多くなったね。変に「デートの予定がないと恥ずかしい」とかじゃなくて、よっぽど健全だよ(笑)。もちろん自分も、時代や年齢とともに価値観は変わっているから、何を大切にするかも変わっていくし。それこそ達郎さんもお酒飲まなくなったらしいし、ユーミンも普段はお坊さんみたいな生活だと言ってるんだけど、すごく理解できる。現役でいいコンサートを長くやり続けていくためには、やっぱり自然にそうなるよなと。普段の自分を整えておいて、その上でステージに立つ。どうしてもステージやメディアに出る時だけが目立つけれど、実は日常こそが大事だったりするから。何年か休んでたら、基本的に喉やパフォーマンスは維持できないだろうし。ダンス系のシンガーやグループは体力が必要だから、長く活躍し続けようとしたら本当に大変だろうなと思う。俺は歌でよかったよ(笑)。とはいえ2連続で全都道府県ツアーをやっていること自体、なかなか頑張ってると思うけど。

マネージャー:すでに来年、再来年と活動プランを立てていますが、2028年にはもう45周年が来ますからね(笑)。
F:そうだよな(笑)。引き続き、日々の健康管理を大事にしつつ。この1年を振り返ると、本当にコンサート三昧だった。1月からツアーに向けてなんやかんや準備していて、4月からツアー。スケジュールもちょうどよく、オフもあったからメリハリもあってよかった。あとはクリスマスの東京公演が終わると、もう今年は終わった気分で、やり切った感があるだろうな。それにしても、FUTATABIツアーがまだ終わってもいないのに、現時点ではまたいつかやりたいと思っちゃってるぐらいだからね。
———そう思えているということは、いかに今のツアーが充実しているかが伝わってきます。2026年、ツアー後半のステージにも期待しています。
※インタビュー以降に内容に変更が生じている場合があります。ご了承ください。