
「いいと感じたものは、FFメンバーとシェアしたい」。
そんなスタンスで、フミヤのおすすめ&お気に入りを紹介するコーナーです。
今回フミヤのアンテナがビビッととらえたのは、こちら!
「BUTTER」柚木麻子 著(河出書房新社)

本との出会いを大切にしている。欲しい本がピンポイントに決まっている場合はネットで買うこともあるが、本屋に足を運び、あれこれ迷い悩みながら選ぶほうが自分は好きなのだ。店頭に並べられた本を眺め、帯文を読んだり、手に取って表紙をめくり、作家のプロフィールを見たりしながら選ぶ。偶然の出会いで購入した本が面白かった時は、当たりくじを引いたような気分になる。
今回紹介するのは、柚木麻子さんの「BUTTER」。
現時点で累計170万部、イギリスで文学賞4冠を受賞しているという、国内外で人気の作品だ。
なお、柚木さん自身の意向により、2026年4月に本作の版権を新潮社から河出書房新社へと移している。その経緯からは、作家として社会に意思表明する柚木さんの生き方が感じられる。
私が購入したのは、以前の新潮社版だった。当時の帯には「全世界100万部突破」「イギリスで日本人初の3冠達成」とあるので、それ以降の躍進もすごいことが分かる。表紙には、黒いタートルネックに真珠のネックレスを着け、目を閉じた金髪の女性が描かれていて、なんとも素敵だ。帯文や表紙の印象から、勝手に「イギリスで受賞ということは、イギリス人女性を主人公とした物語なのだろうか?」などと想像した(実際は全然違ったが)。プロフィールによると、他の作品でもオール讀物新人賞や山本周五郎賞を受賞されている。これだけで受賞作家に弱い私を惹きつけるには十分だったので、内容は一切知らぬままレジに向かった。
いざ読んでみると、舞台は日本。主人公は出版社の女性記者、そして準主役が婚活連続殺人事件の女性容疑者。もし映像化されるなら、後者の女性が主役になるのかもしれない。被害者は男性たち。サスペンスなのかミステリーなのか分からないまま、どんどんページが進んでゆく。
文章のリズムが、なんともセンスがいい。表現の巧みさもさることながら、一文一文が綺麗。なのに、ゾクゾク・ドロドロ・ベタベタするほど面白い。変な表現だが、こんな言葉が的確な気がするのだ。
女性にしか書けない、全体的に女性目線で描かれている物語。何を感じるかは、女性と男性で明らかに違う気がする。なんと言えばいいのか……女性の秘めた部分、男には永遠に分かり得ない部分とでも言うか……とにかく面白い小説を読んだ!という充実感。毎度のことながら小説家ってすごいなぁと思わずにいられない、小説たる小説だった。
物語は、実際に起きた事件をモチーフに創作されている。作家は執筆に必要な資料を集め、実在のモチーフがある場合は現地取材なども重ねて、物語を書いてゆく。作家と呼ばれる方々の取材力と知識量にはいつも驚かされるのだが、この本の参考文献は、わずか4冊。情報を得るのに書籍や新聞・雑誌しかなかった時代から、インターネットで検索できる時代へと移り、さらに今はAIまである時代。もちろん併用するのだろうが、手段は移り変わっているのだろう。本作は平成29年(2017年)刊行と記されているので、インターネット時代の小説と言えるかもしれない。
折しも今月、版権を移した河出書房新社からの新版「BUTTER」が発売された(2026年6月15日発売)。「世界40か国・地域で翻訳」「21世紀の日本文学史を変えた1冊」ということで、これからも記録を更新してゆくのだろう。河出文庫版には新たに、第7回野間出版文化賞受賞スピーチ「帝国ホテルですてきな立食パーティーを」と、イギリスツアー日記「どんな場所にも小説とカラオケはある」が特別収録されている。
「BUTTER」―――読み終えた時、このタイトルの意味が分かる。間違いなく濃厚なバターのような質感の小説なのだ。まんまとハメられる。そして上質なバターが無性に欲しくなる。
そんな小説「BUTTER」、ぜひお勧めします!